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消えた「健康本の世界」のリニューアルバージョン


by netsociety

特許大学

特許大学から博士号を取得した著者
土屋義弘
政木和三
的場民治
三上晃

別冊宝島「トンデモさんの大逆襲!―超科学者たちの栄光と飛躍」(宝島社、1997年10月3日 発行)より
あなたの知らない博士号のヒミツ(三井一郎)

《89ページ》
そんななかで、現在のところ、なんらかのかたちで「特許大学」ご出身と確認が取れているのは、例の“ひも医者本”のプロデューサー役と言われるオカルト経営コンサルタント氏とお親しいらしく、「全人類の15%が自分を支持している」と称し、「エレキ・ギターを発明していた」と主張している(が、その特許は取得していなかったらしい)発明家の工学博士氏(注5)や、「太陽は熱くない」と“植物さん”に教わったという理学博士氏(注6)ぐらいである。

《91ページ》
注5 この方は、以前大阪大学の付属機関に勤務されていたためか、かつて「阪大教授」を詐称していたことがあり、『週刊朝日』によってそれが暴露された際に、あわせてこの件も報道された。『週刊朝日』の記事が出てからも発明品の広告などで、「元阪大教授」を名乗っていたが、数年前に出版された著書からは、正しい肩書きを用いるようになっておられる。編集者からのアドヴァイスでもあったのであろうか。

注6 ビートたけし氏と明石家さんま氏が司会をしていたTV番組で博士のことが紹介された際、学位記が映し出されたために判明。この場合、おそらくはご本人も、自分の“学位”が「株式会社」から授与されたものだとは、ご存じなかったものと思われる。

取違孝昭 著「新潮文庫 騙す人ダマされる人」(新潮社、1999年3月15日 3刷)より
第四章 ブランド詐欺
(略)
「あなたも博士になれます」。こんな案内状が全国の知名人に郵送されてきたのは1960年代中ごろからである。
功成り名遂げた人にとって、これはちょっとオイシイ話。叙位叙勲のシーズン、名士の方たちが今度はもらえるかどうか、そわそわするのと同じような心境かも知れない。
「この大学で発行する博士号は、一般大学が授与している博士号よりも権威と実力があります」と、続けられていた。
最近の大学の権威や実力はたしかに地に堕ちている。まず、そこに思いを馳せさせようとする仕掛けだ。ところで、この「大学」はそこらにある大学とはちがう。東京・神田に本部を置く「特許大学」という。大学と名乗っているが、実は木下富夫(66)という人物が1964(昭和39)年6月に設立した株式会社で、特許や商標、意匠権、実用新案などの売買や斡旋を本業とする。
その「大学」が授与する博士号にはさまざまなものがあった。「医学博士」「工学博士」「農学博士」などは珍しくないが、「鍼灸学博士」「指圧学博士」「警察学博士」「呪元術霊法学博士」となると聞き慣れない。しかも、その博士号の上に「特許」の文字がついている。つまり「特許医学博士」といった具合。そして、それがこの博士号のミソだった。
普通の博士号は博士課程のある大学で授与され、むやみに誰もが博士を名乗るというわけにはいかない。軽犯罪法第1条15項には次の定めがある。
「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、または資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作った物を用いた者」には「拘留(1日以上30日未満)又は科料(20円以上4千円未満)に処する」
官名などの詐称の禁止である。博士号もそこに含まれる。従って、もし何ら資格のない人が「農学博士」などと名刺に刷り込んだら、これはもう立派な犯罪である。ところが、「特許」がつくと、これはちがう。「特許農学博士」を名乗ろうが「特許医学博士」を名乗ろうが、まったく法律には抵触しない。居酒屋のオヤジが店の名前に『農家のおばちゃんの店』とつけても、全国の農家のおばさんたちから訴えられるということはあるまい。それと同じである。そこに目をつけたのだから、木下「学長」という人物はなかなかの慧眼の士だった。
しかも、それが打ち出の小槌のように金を生んでくれたのだからたまらない。
特許大学はそもそも「会員制で厖大なる発明シンクタンクであり、夫々専門分野の講師が後輩の論文その他資料を審査し特許博士号を授与するものである」。もっともらしく述べてはいるが、博士号を授けられるのにそれほど困難が伴うわけではない。特許大学の定めでは、博士号授与の有資格者は(1)特許権を持つ発明家(2)科学技術についての著作権を持つ科学者、技術者(3)発明功労者(4)社会功労者(5)博士号を持つ者(6)論文合格者─となっていた。ことさら苦労して論文など書かなくてもいいのである。ある程度、年齢さえとっておれば、誰だって「社会功労者」ぐらいは名乗れる。
博士号の取得のための資格ハードルが低いといっても、それだけでは工夫がなさすぎる。「特許博士」をむやみに世に送り出しても意味はない。授与する側の目的は金である。せっかく「大学」と称しているのだから、それにふさわしい巻き上げ装置が必要だった。そこで「審議銓衡及記録料」の名目を使った。2ランクあり、「入士」は博士論文をこれから書こうという者に対し、論文指導料としてまず30万円から200万円を取る。さらに「博士」の有資格者には、授与の際に200万円から500万円を出させる仕組み。
博士号を授与された者には立派な学位証が送られてきた。
「本大学の学位審議選考委員会で審査の結果、特許○○博士を授与する」
さらに身分証、大学バッジ、会員章、金メダル、記念杯などが送られてくる。
多くの人が「特許○○博士」を名刺に刷り込んで喜んだ。
また博士号に満足しない人のためには「新爵位」も授与してあげた。「公侯伯子男」のそれぞれに「新」という文字をつけ足し、「新公爵」「新侯爵」「新伯爵」「新子爵」「新男爵」といった具合。それに新たに「功爵」「博爵」なる爵位も設けた。もちろん、これも「特許博士」と同様に犯罪とならない。この爵位の授与はいささか厳しくし、国会議員経験者とか多額納税者などを有資格者として、それにはもちろん金を必要とした。「審議銓衡及記録料」は「功爵」「博爵」が200万円と最も安く、「新男爵」は500万円、「新公爵」は1億円もした。
木下「学長」の設立した「特許大学」は1980年12月、警視庁に摘発されるが、その直接の容疑は「学長」みずから自分の名刺に「特許」をつけないまま「工学博士」などの称号を刷り込んでいたという軽犯罪法違反に過ぎなかった。それまでに博士号や爵位を授与してあげた人は約千人にのぼり、手にした「審議銓衡及記録料」は総額十数億円に達したと言われたが、それは法に触れなかった。
「特許博士」も「新公爵」もまるでお菓子のラベルに刷り込んである商品名と同じようなものである。この手を使うなら、アイデアがいくらでもわいてくる。「新大将」「新大佐」に、「新事務次官」「新局長」、それに「新横綱」に「新大関」などというのも有り得る。おかしなことに、この仕組みが明らかになった後も、ほとんどの「博士」や「公爵」たちは怒るどころかハッピーだった。

朝日新聞(1980年12月24日夕刊)より
肩書の効用 ニセ博士号事件
“被害者”ほろ苦い年末 なお意気盛んな“容疑者”
「取り調べの警官がね、札束を一枚一枚数えるのかというから、いやハカリにかけるんだ、百万円の重さの目盛りに印をつけておくんだ、と言ってやったの」――それくらいもうかったのである。
肩書の欲しい人に本物の博士号と紛らわしい「特許博士」を授与し、手数料として一件百万円―二百万円、総額十数億円をかせいだといわれる株式会社「特許大学」の松重栄学長(六六)。軽犯罪法の官名詐称容疑で、書類送検されたばかりだが、少しも悪びれた様子はない。
「そりゃ、そうよ。わしゃだました覚えはないもの。ウチが出している博士号は、キチンとした商標。確かに一部は特許庁が拒絶して係争中だけど、すでに許可ずみのものもある。大体、文部省の博士号だっていいかげんなものが多い。文部省、文部省といばるな、といいたいね」。話すほどに意気盛んとなる。
警視庁の摘発も、乱発した「特許博士」そのものではなく、松重学長が正規の博士号を持っていないのに、名刺などの肩書に「政経学博士」「工学博士」などと名乗っていたのがけしからん、というもの。官名詐称とはいえ、いわば別件容疑みたいなものだ。
「博士号は、アメリカのある大学で、四十年ごろ五十万円払ってもらったもの。インチキじゃありませんよ」。松重学長はあくまで突っ張る。
警視庁の調べでは、松重学長はもうけた金の大半をキャバレー遊びや小豆相場につぎ込んでいたという。年寄りにしては、えらく発展家だとも思えるのだが、本人に言わせるとこうなる。
「それも理由あるのよ。ホステスさんたちは、会社重役や社会的地位のある人をよく知ってるでしょ。彼女たちにチップを余計にやって、お得意さんの名簿を見せてもらい、その人たちに博士号の案内状を送りつけるわけ。飲み代に五万円、チップに五万円やっても、博士号の申し込みが一件あれば二百万円、残り百九十万円がもうかる勘定。わしゃ、赤坂のキャバレーのホステス三百人は知ってる。これも特許大学の営業の一部ですよ。それにしても、ホステスは客の心理をよく知っている。『あの人、名誉欲強いから、きっと申し込むわよ』といってくれた人は必ず、博士号をもらいに来るもの」
松重学長は、もし今回の摘発がなければ、全国の県議、市議、商工会議所や消防団などのメンバーに、片っ端から案内状を送る計画だったそうで、来年は五千人の入会を目指していた。「(事件が)新聞に出なければ、百億円はもうかったのに」と残念そうだ。
「いずれにしても、博士号も宗教みたいなもの。ありがたやありがたやで、みんなが信じていれば、いいんじゃない」。最後につぶやいたこのことばが、学長ドノの哲学と見受けられた。
今年は警視庁でニセ物摘発が相次いだ。ニセ博士のほか、外国有名ブランドのニセバッグ、そしてニセ医者で検挙されたのは十九人と昨年の約二倍。この中でも、もっともマンガ的だったのがニセ博士号事件。捜査は難航した。松重学長が郷里の山口県で経営していたせっけん工場をたたんで、博士号商売を始めて十数年、この間警視庁では何度かこの商売の違法性を検討したが、適用される具体的な法律がなかなか見つからない。詐欺罪にしては、“被害者”の中に喜んで「博士号」を買っている人がいて、どうもすっきりせず、結局、博士号商法そのものではなく松重学長個人の官名詐称を問うという、からめ手作戦に落ち着いた。
今回摘発された後も、“被害者”たちは一様に口が重い。以前は「名刺に博士号を刷り込めば商売繁盛。田舎でも初めて博士が出た、と大喜びさ」とニコニコ顔だった東京都内の医療器具商(八〇)にしても、いまやインタビューの申し込みに「忙しくて」の一点張り。「女房に内証で博士号を買ったので」と電話を切る農家の主人。特許博士受賞パーティーで何度か講演した国会議員たちも「ウチは利用されただけ」と防戦一方。罪に問われてもなお意気盛んな“容疑者”に比べ、“被害者”の方はなんとなくほろ苦い年末を迎えている様子だ。(天)

《写真のキャプション》
「特許博士は宗教と同じさ」という松重栄学長
=東京都千代田区内神田1丁目の特許大学で

朝日新聞(1980年12月19日夕刊)より
松重を書類送検へ
ニセ博士号乱発事件
株式会社「特許大学」によるニセ博士号乱発事件を調べている警視庁防犯特捜隊は十九日午後、「特許大学」社長松重栄(六六)=東京都港区虎ノ門四丁目=を軽犯罪法違反(官名詐称)の疑いで書類送検する。調べによると、松重は正規の博士号を持っていないのに、今年七月ごろ「特許農学博士」を申請した神奈川県在住の農業技術コンサルタントAさん(五〇)に、「工学博士、政経学博士」と記載した名刺や領収証を交付し、博士の称号を詐称したほか、同様の手口で計十二人に称号詐称した疑い。
防犯特捜隊の調べでは、松重は三十九年ごろから「特許医学博士」「特許工学博士」「特許ハブ学博士」など四十四種類のニセ博士号を計千百十二人に販売、五十一年からの五年間だけでも二億五百七十万円もの利益をあげていた。
(出典:健康本の世界)
by netsociety | 2009-05-23 16:55 | 特許大学